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豊島教会新聞 2020年6月号 主任司祭 巻頭言

 

 「ウォールデン ー森の生活」   

 

 

                              主任司祭 フランシスコ田中隆弘

 

2月26日(水)灰の水曜日の典礼後、翌日の27日から新型コロナウイルスのため「教会閉鎖」となりました。また2月29日(土)から3月9日(月)聖地イスラエル巡礼旅行も中止になってしまいました。

 

  その後、3ヶ月の「教会閉鎖」の間、わたしはいくつかのことを集中的にしましたが、そのうちの一つは「読書」でした。そして、読書のうちには「再読」というものが何冊かありました。そんな中で、皆さんへのおすすめの一冊を紹介します。ヘンリー・デイヴィット・ソロー著 『ヴオールデン-森の生活』 です。 

 

 『私が以下のページ、その大部分を書いたのは、私がどんな隣人からも一マイル離れた森の中、マサチューセッツ州コンコードにあるウオールデン湖の岸に、自分で建てた家に住み、自分の手の労働で糧を得て暮らしていたときのことであった。私は二年二ヶ月そこに住み、今はまた文明生活の仮寓者になっている。(拙訳『ウオールデン‐森の生活』原典)

 

 よく知られた一節ですが、ここには「ウオールデン-森の生活」の様々な要素が語られています。まず家族や町から離れた森の中の独居についての話であること、そこはどんな隣人からも一マイル(二キロ程度)離れた孤独な場所であること、湖畔での暮らしが、ここアメリカの独立戦争ゆかりの地で始めた文化的な独立の営為であることが記されています。

 

 引用三行目の「自分の手の労働」というのは聖書の言葉で、自給自足の思想を表明しています。他にも今はまた文明に住む仮寓者であり、語り手は本質的にピルグリム(聖書「イザヤ書」の巡礼者、この世では仮の宿りしか持たない旅人)であるとの表明も隠れています。

 

 また英語の原文では、場所の表記は日本語と逆で、まず私があり、次にウオールデンという場所、次に町、州と続いており、自己を中心に場所が広がっていく感覚が表現されています。

 

つまりこの作品は、近代化と初期資本主義経済が拡大し、生産と消費の形が生活全般を劇的に変えていく時代の、個の確立の書で、自分の立つ美しい湖畔を起点に町と州と世界を考える本なのです。』  

                  「はじめてのソロー 森に息づくメッセージ」 伊藤詔子