豊島教会新聞 2021年7月号 主任司祭 巻頭言
『 近くにカラオケ店はありますか 』
主任司祭 アシジの聖フランシスコ 田中隆弘
私が以前働いていた教会にカトリック秋津教会というのがありました。その教会はフランスのパリミッション
会の神父様方が創立した教会の一つです。わたしが赴任するまで、創立以来ずっとパリミッション会の
フランス人の神父様たちがその教会の主任神父をしていました。
私はそれを引き継いで日本人として初めてその秋津教会に主任神父として赴任しました。この教会は、そのパリミッション会の神父様方が創立に関わったベタニア修道女会が経営する数々の施設のなかにある教会でした。病院、老人ホーム、特別養護老人ホーム、児童養護施設、幼稚園、小学校、中学校、高校といった、さまざまな施設のなかにある教会でした。おかげで私は、活動修道会のシスター方がどのような仕事をするのかを一度に体験することができたわけです。そのなかで50人以上のシスター方が、それぞれ4つの修道院に分かれていろいろな活動をなさっている。
その姿をずっと観ながら過ごすことができました。そしてその生涯をかけての活動のすばらしさ、またそのような活動があってこそ私たち日本のカトリック教会は支えられているということを、教えてもらったわけです。いまでもとても感謝しています。
その後、カトリック高円寺教会に異動になりましたが、そのとき後任の神父さんとの引き継ぎをしました。その神父さんが一回目にやってこられて私に聞いたのは、「近くにカラオケ店はありますか」と言う質問でした。何を尋ねられるのかなと思っていたら、とてもカラオケ好きの神父さんで、「カラオケ店ありますか」ということだったので、私は困ってしまいました。私は歌うことが苦手なので、それまでカラオケ店というところには生まれてから一度も行ったことがありませんでした。その後も今にいたるまで、一度だけしかカラオケ店に行ったことがありません。その唯一のカラオケ店は日本ではなく韓国のソウルでのことでした。韓国人の先輩の神父さんで、やはりカラオケ好きの神父さんのお供でした。断ることができなかったのです。
さて、私は「カラオケ店ありますか」と聞かれて「たぶん無かったと思います。でも次に来るときまでに調べておきます」と答えました。あとでシスター方にたずねると、学校を担当するシスターが「校門のすぐ目の前にカラオケ店があります」と教えてくれました。私は何度もそこを通っているのに、まったく気付かなかったわけです。そう言われて行ってみると、たしかにありました。
「心そこにあらざれば、見ていても見えない。聞いても聞こえず」のたとえどおりだと思います。まさに私にとっては、カラオケ店は見ていたのに、見えなかったということなのです。マルコ福音のなかで、「これはわたしの愛する子。これに聞け」とあります。
私たちはちゃんと見て、聞く必要があるのだろうと思います。また、福音に対してだけでなく、私たちの大切な人、家族、友人に対しても、私たちはちゃんと見る、ちゃんと聞くことが大切なのだろうと思います。